最近、「学校作業療法士って何ですか?」と聞かれることが増えてきました。
実は、「学校作業療法士」という資格や制度は存在しません。正式に定められた名称でもありません。
ただ、学校のために作業療法の技術を使って働いている人たちは確かにいて、その人たちを便宜的にそう呼んでいるというのが現状です。
日本では作業療法士の多くが病院や診療所などの医療機関で働いています(日本作業療法士協会の2023年度会員統計では、医療関連が全体の約55%)。
私、仲間知穂は沖縄で学校作業療法を続けてきた作業療法士です。
この記事では、ゆいまわるの現場から、学校作業療法士の仕事内容やなり方、求められるスキルについて書いてみます。
「学校作業療法士」「スクールOT」とは
学校に定期的に入って活動する作業療法士はまだごく少数で、制度として確立された職種でもありません。
「スクールOT」という呼び方もありますが、学校に所属する専門職のように聞こえるかもしれません。
実際には、福祉サービスや自治体委託といった制度の枠組みを使って学校に入っている作業療法士が多く、学校の外から来て先生と一緒に取り組む存在です。
ゆいまわるでは「OT for School」という表現を使うことがあります。
「学校のために作業療法を届ける」私自身はその感覚の方がしっくりきています。
この記事ではひとまず「学校作業療法士」と呼んでみたいと思います。
病院と学校で、作業療法士の仕事はどう違うか


病院で働く作業療法士と、学校で働く作業療法士の一番大きな違い。
それは「何を中心に考えるか」です。
病院では、医師の診断書をもとに作業療法を実施します。目的は患者さんの機能回復が中心になります。もちろんそれはとても大切なことです。
でも、私たちが学校でやっていることは治療とはまた違います。
それが学校作業療法の大きな特徴です。
人は、自分が所属する社会の中で役割を担い、期待されていることや、やりたいことを行うことで環境とつながっています。
授業に参加する、友達と過ごす、準備や片付けをする、先生とやり取りする。それらはすべて、その子の人生を作り上げていく日々の「作業」です。
その一つひとつができる状態をつくっていくのが、学校で働く作業療法士の仕事になります。
治療的な側面がゼロではありませんが、それはごく一部。
学校に訪問している作業療法士は必要であればどこにでも行きますし、先生、保護者、自治体の方々、どなたとでもチームを組みます。
生活がベースにあるため、作業療法士の自由度はかなり高いと感じています。
日本では「学校作業療法」まだ制度化の途中にある
アメリカでは、作業療法士の約20%が学校に配置されています。地域の教育委員会に所属して現地の学校に入るという仕組みが制度として出来上がっている状態です。
一方、日本ではまだそこまで整ってはいません。
直接雇用という形もありますし、保育所等訪問支援という福祉サービスを使った入り方もあります。
けれど、制度としての王道はまだ確立されていないのが実情です。
ただ、ゼロから作っていけるということは、既存の枠組みに縛られないということでもあります。
制度が先にできてしまうと、どうしてもその枠の中でしか動けなくなる。
大変ではあるけれど、本当にありがたいことだと感じています。
学校での作業療法士の仕事内容(ゆいまわるの場合)
ゆいまわるの学校作業療法は、大きく2つの入り方に分かれています。
- 保育所等訪問支援という福祉サービスとしての入り方
- 自治体委託による学級コンサルテーションとしての入り方
制度が違うだけでなく、関わり方そのものがだいぶ異なります。
保育所等訪問支援──福祉サービスとしての入り方
保育所等訪問支援は、保護者との契約に基づいて学校を訪問する福祉サービスです。
訪問して子どもの様子を分析し、その内容を会議の場で先生に説明する。保護者の思いをじっくり聞いて、学校と家庭をつなぐ。毎月継続して関われるので、深く丁寧な支援がしやすい形です。
ただ、個別契約である以上、契約している子どもの個人情報しか取り扱えません。
でも、その子が生きている「環境」には物と人と時間がある。時間と人に関しては他の子どもたちの情報でもある。
環境調整を本質とする作業療法にとって、ここは正直なかなか難しいところです。


学級コンサルテーション──自治体委託としての入り方
自治体委託の場合は、学校のリクエストでクラス全体の支援に関わります。
校長先生たちからは「学級づくりのコラボレーション」と呼ばれています。
作業療法は、子どもと環境の相互作用を見る仕事です。
子どもを個別に見て、その子の作業のみで考えると、できることが限られてしまうのが実情です。
クラスづくりというベースで考えた方が、作業療法の本質に近いと私は感じています。
実際の流れとしては、まず授業を参観しながら、先生の届けたい教育をクラスの中で子どもたちがどのように行っているのかを分析します。
それをもとに、環境調整や時間の使い方、情報提供の方法を中心に、担任の先生と作戦会議を行う。
相談があった子どもだけでなく、クラス全体にとって効果的な方法を一緒に検討していきます。
子どもが関わる環境と、その環境それぞれの特徴を即座に分析していく力。情報量も圧倒的に多くなります。


保育所等訪問支援・自治体委託、2つの学校への入り方の違い
どちらが正しい、どちらがより良いという話ではありません。制度が違うことで生まれる入り方の違いと、一人ひとりの子どもへの関わりの深さの違いがあるだけです。
- 保育所等訪問支援は保護者とじっくり向き合える。家庭と学校の橋渡しがしやすい。
- 学級コンサルテーションは先生のニーズにマッチしやすく、クラス全体の変化を生み出せる。
ただ、ゆいまわるの実践を通して強く感じているのは、一人の子どもの成功は他の子どもの成功につながっていくということです。
一人の達成感が他の子の達成感につながって、「自分ができたからオッケー」ではなく「みんなと一緒にできたから嬉しい」という世界が広がっていく。
そうなると必然的に、その子だけでは済まなくなっていきます。
学校作業療法士の学校の先生との関わり方
学校作業療法士として最も重要なことの一つが、学校の先生との関わり方だと言えます。
ゆいまわるでは特に以下の2点を大切に関わっています。
- まず先生の「届けたい教育」を学ばせてもらう
- 「評価する人」ではなく「チームの一員」として
まず先生の「届けたい教育」を学ばせてもらう


先生との関わり方で一番大事なこととはなんでしょう。
それは、先生が教育とクラスづくりのプロであるということを、心から理解した上で関わるということです。
それが何よりも重要です。
先生が問題を感じるのは、本当はこうなってほしいと強く願うことがあるからです。
問題と感じる行動は、届けたい教育の入り口でもあります。でも、その素晴らしい教育を叶えようとするとき、「この問題さえ排除すれば」「この問題さえ解決すれば」という手前のところで止まってしまっていることが多いものです。
そのとき私たちがやるのは、問題を解決することではありません。
先生に俯瞰して、自分のやりたいことを多角的に見てもらう。
するとあるとき先生が「あ、じゃあこうすればいいじゃん」と自分で気づく。
先生自身がそう思えることが、学校作業療法ではとても大切です。
私たちが学校に入るとき、大事にしていることが4つあります。
- 相手の文化の言葉を使うこと
学校には教育現場の独自の言葉があり、私たちが日頃使う「観察評価」は「授業を参観させていただく」と表現した方が先生のイメージに近い。 - 相手に誠実な関心を寄せること
先生が忙しい中で何を大切にしているのかに心を向ける。 - 相手の立場から物事を考えること
専門的に正しいかどうかよりも、先生の学級運営にとって有効かどうかが重要です - 相手の語りを大切にすること
先生が本当にやりたいことは、面接の場だけではくみ取れないことも多い。取り組みの中で先生の語りや表現に常に関心を寄せ続けることが必要です。
「評価する人」ではなく「チームの一員」として


学校に入り始めるとき、先生に警戒されることがあります。
「え、そんなにいっぱい来るんですか?」
「ずっと教室の中にいるんですか?」
「廊下からじゃダメですか?」。
先生は、外部の専門家が自分をジャッジしに来ている、評価しに来ていると感じていることが多いです。
でも私たちは、先生を評価するような立場ではありません。
子どものためのチームの、対等な構成員です。
そのことが伝わると、先生が安心されて、接し方が変わってきます。
2回目の訪問の前の休憩時間に「最近こんなことができたんですよ」と声をかけてくれたり、授業の後に「今日これでしたね」と自然に情報を教えてくれるようになるんです。
良い循環に入ると、先生は元気になります。そして思うのです。
先生って本当に教育が好きなんだな、と。
やっぱり子どもが幸せになるために、1年しか関われない中でいかにいい影響を与えられるかを、先生たちは心から求めているのだと感じています。
学校作業療法士と保護者との関わり方
学校作業療法士として学校の先生との関わり方と同様に重要なのが保護者との関わり方です。
ゆいまわるでは特に以下の2点を大切に関わっています。
- すでに傷ついている人たちと出会うということ(フリー・フラット・ファンの考え方)
- 学校訪問支援の「卒業」は問題がなくなることではない
すでに傷ついてきた人たちと出会う


保護者さんたちは、多くの場合、すでにたくさん傷ついています。
学校や保育園の様子が見えない不安。
生まれてから色々言われてきた経験。
病院での衝撃的な事実。
社会と戦うしかないくらい追い詰められている方もいます。
子育てはすべての人が初めてすることです。
そんなときから情報に振り回されると、本当に子育てって何だろうと迷子になるもの。
だから、学校に敵対心を持っていたり、不安でいっぱいだったりすることは当たり前のことだと思います。
ゆいまわるでは「フリー・フラット・ファン」という考え方を大切にしています。
フリーは、自分の子育てを自分軸で自由に選んでいいということ。
専門的な情報にがんじがらめにされて選択肢を奪われた人たちに、もう一度自分の本当にやりたいことを考えていいんだと感じてもらうこと。
フラットは、一人で抱え込むことなく、みんなで一緒に叶えましょうということ。
そしてファンは、笑顔で子育てを楽しんでいいということ。
日本のお母さんたちはとても真面目だから、苦しまなきゃいけないと思っている方が多い。
でも、お母さんの笑顔が一番子どもの栄養になるのです。
学校訪問支援の「卒業」は問題がなくなることではない


ゆいまわるの支援では「卒業」を大切にしています。
ただ、この卒業は問題がなくなった状態を指すわけではありません。
子育てにおいて問題がなくなることなんてありません。
私も息子が3人いますが、高校生になった今でも日々いろんなことが起こります。
問題は、人生における問いです。それ自体は悪いことではないのです。
大切なのは、その問いに対して自分の人生をどうデザインしていくか。助けてもらうことも自立の一つの形です。
自分でここまでできるから、ここからは一緒にやってもらえますかと言えることも。
そうやって自分の生活を作っていく力がついたら卒業です。
保護者さんの中には、子どもが元気になっていく過程で少し不安定になる方もいます。
それまでの生きがいが「大変な子の母親」としてのアイデンティティだった場合、子どもが成長するということは自分の役割がなくなるように感じてしまう。
フリー・フラット・ファンの中で、ファンが一番難しいのはそういう理由です。
でも、そこがその人らしい素敵なゾーンなんだと伝えていきたいのです。
子どもとの関係に健全な距離を作って、学校のチームに委ねてみる経験を積んでいく。
最初はクッションとして私たちのような第三者が入りますが、やがて先生に委ねる、地域に委ねるという風に移行していく。
「じゃあ私はヨガに行ってきます」と笑って言えるようになったとき、実はその子の生活はそれほど変わっていなくても、親子関係が大きく変わっているのです。
学校作業療法士になるには
では具体的に、学校に関わる作業療法士になるために必要な資格や経験は以下です。
- 作業療法士の資格
- いま受けておくべき研修
- 制度上のキャリアを意識する
- 自分に合った作業療法を見つける
順番に整理してお伝えします。
作業療法士の資格は前提
学校作業療法士、つまり学校に訪問する作業療法士になるためには、まず作業療法士の国家資格が必要です。
作業療法士が取り扱う「作業」はとても哲学的で難しい概念なので、分かりやすく説明するとそれって誰でもできるんじゃないかと思われることがあります。
実際、業務独占ではないので、やっていること自体は本質的で当たり前にいいことだったりもします。
でも、だからこそ作業療法という概念に専念できる専門職が必要なのです。
いま受けておくべき研修
現在、「学校作業療法士」になるための特定の資格や講座はありません。
ただ、学校は非常に文化的な場所であり、土足で乗り込んでいくのは絶対にタブーです。
日本作業療法士協会が提供している特別支援教育の作業療法士に関する講座は、最低限受けておくべきだと思います。
私自身はそれができる前に学校に入っていましたが、今は受けてから行くべきだと考えています。
また、私たちは学校作業療法の研究会も立ち上げています。
研究会でさらに技術レベルの研修を作っていくことも想定しているので、学ぶ環境は少しずつ整いつつあります。
キャリアの積み方──制度上のキャリアを意識する


学校に関わりたいと思ったとき、保育所等訪問支援事業所に入るというのが現実的な入口の一つです。保育所等訪問支援事業は、現時点で学校に比較的入りやすい制度でもあります。
ただ、一つ伝えておきたいのは、制度上の「キャリア」を意識してほしいということです。
養成校の先生として教育に携わり、本もたくさん読んで、世の中に貢献していく素晴らしい技術者になっている方もいます。
でも、養成校での教育キャリアは、福祉サービスにおける「キャリア」としてはカウントされません。
それと並行して、学校の中を勉強してほしいとも考えています。
ボランティアでもいいし、スクールソーシャルワーカーのような形で学校に関わることもできます。
学校の文化を知ることは、どんな入り方をするにしても欠かせません。
自分に合った学校作業療法を見つける
学校作業療法にも色々なアプローチがあります。
専門知識を駆使してその場で答えを出していく匠の技のようなスタイルもある。
それはそれでスペシャリストのあり方として尊重されるべきです。
いろんな人の実践を聞いて、心が弾む方向を選ぶのがいいと思います。
ゆいまわるで私が実践しているコラボレーション型の学校作業療法に関しては、座学で学べるものではありません。
ケースについて教えてもらって、担当の先生に教えてもらいながら、実践の中で磨いていくスキルです。
だから、お金を払ってOJTを受けるよりも、一緒に働いてもらって、チームとして現場で学んでいくのが一番丁寧にやれる形だと思っています。
学校作業療法士に求められるスキルと資質
学校に入る作業療法士だからこそ、求められるスキルや資質もあるのです。
- 知識と技術の土台
- 人柄も重要
- 学校文化を理解する力
たくさんありますが、大きく分けると上記の3つが挙げられます。
知識と技術の土台
感覚統合、運動学、生理学。こうした基礎的な知識と技術は口を酸っぱくして言ってもなお足りないくらい、当たり前に必要なものです。
もうそれは「必要」に入らないくらい前提としてやらなくてはいけないことです。
それ以上に大切な「人柄」
身も蓋もない話かもしれませんが、最も必要なのは人柄です。
どんなに言葉を整えても、醸し出される人柄が相手に伝わります。
人をジャッジしてしまう人、自分を強く見せようとしてしまう人は、先生たちが警戒を解いてくれません。
自分と相手を上か下かで測ってしまうその姿勢は、言葉を繕っても見抜かれる。
ただ、それは学校作業療法士に向いていないという話であって、作業療法士として価値がないという意味ではありません。
学校作業療法士たちを応援する事務や養成、つなぎ役、事業を広げる案内人。
色々な形で貢献できる場所があります。
パーソナリティをどうこう変えなさいというよりも、その人に合った環境を選ぶということが大事です。
学校文化を理解する力
先生たちが多忙であること、カリキュラムの膨大さ、クラスの中の多様性あふれた子どもたち一人ひとりに応えながら教えていく大変さ。
そうしたことを知識としても知っておかなくてはいけないし、何よりそこへのリスペクトを持つことが重要です。
学校に入ると、自分の至らなさに気づく場面が何度もあります。
この歳になっても、もう一回自分を磨かなきゃいけないんだと突きつけられる。
それを楽しめるかどうか。
苦しいと感じたら、学校作業療法は毎日つらいものになってしまいます。
自分磨きを技術磨きとして楽しめる人に、この仕事は向いていると思います。
学校作業療法を学びたい方へ


学校作業療法は、まだ発展途上の分野です。だからこそ、現場を学び続けることが大切だと思っています。
ゆいまわるでは、研修や勉強会、書籍、放課後ラジオなどを通して、学校作業療法を学ぶ場を作っています。
本の紹介もありますし、研修の案内も見られます。
一緒に学んでいけたらと思います。
- ゆいまわるの研修
学校作業療法の基礎から実践力を高めるスキルアップコースまで、段階別のプログラムがあります。面接力を高めるコースや、書籍を使った研修コースも用意しています。 → 研修・講演メニュー - FMゆいまわる 放課後ラジオ
ゆいまわる代表の仲間知穂とYUIMAWARU KANSAIの土屋左弥子が、学校作業療法の実践について語り合うオンラインの勉強会です。月1回程度、夜の時間帯に開催しています。 - 書籍
ゆいまわるの実践をまとめた書籍が2冊出版されています。学校作業療法の考え方や現場でのエピソードを深く知ることができます。 → 書籍紹介
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