ゆいまわるが、湘南で学校作業療法をはじめます。拠点は鎌倉。
沖縄ではじまった学校作業療法が、関西を経て、とうとう湘南までやってきました。
ここから藤沢市、横須賀市、逗子へと、子どもたちが笑顔でのびのびやれる世界を広げていきたいのです。
先日は、ゆいまわるSHONANの事務所で、これまでのことやこれからの思いをお話ししてきました。せっかくなので、その日にお伝えした内容を、ここに書いておこうと思います。


学校作業療法の原点は『子育てのプレッシャー』
私が学校作業療法をやるようになったきっかけは、自分の子育てでした。
初めての子育てをしていたとき、息子が人と少し違うというだけで、まわりから強いプレッシャーを感じました。
「お母さん、大丈夫ですか」
「検査を受けたほうがいい」
そう言われても、何が大丈夫なのか、私には分かりませんでした。
検査のデータが出たところで、この子を育てるのは私たちなのに、と思ったのを覚えています。
学校に上がってからも、ほかの子と違うというだけで、たびたび電話がかかってきました。
人と違うというだけで、こんなにも頑張らないと子育てはできないのか。
苦しまないと、世の中をやっていけないのか。
その問いが、のちの学校作業療法につながっていきました。
苦しくなくても子育てはできるんじゃないか。そう思って、私はボランティアで現場に入っていったんです。
ボランティアで見つけた学校作業療法の手応え


ボランティアを始めて、まず現実を知りました。
子どもたちの会議で、誰もその子のやりたいことを語らないのです。
そこで私が持ち込んだのが、作業療法士の技術である「作業に焦点を当てる」という考え方です。
子どもが本当にやりたいこと、先生がやりたいことに焦点を当て、それを実現する。その視点で現場を見ると、できることが次々と見つかりました。
ノートが書けないなら、スタートからゴールまで線を引けばいい。
じっと勉強できないなら、ダンボールハウスの中で学んでみたらいい。
お集まりが難しいなら、パペットを使ってみんなでこっちを見てみよう。
そうやって場をデザインしていくと、みんなが笑っているのです。子どもも、先生も。
学校作業療法の最初の一例は、私自身の息子でした。
書籍『学校に作業療法を ―「届けたい教育」をみんなに』にも、その事例を書いています。とにかく楽しかった。その手応えが、「みんなが笑顔でできるんじゃないか」という確信になっていきました。


学校作業療法を届けていくための法人化
ボランティアの活動は、あれよあれよという間に広がっていきました。けれど、ある行政の方の言葉が、転機になりました。
「ボランティアはいいんだけど、足跡が未来につながらないんだ」
どういうことかと尋ねると、こう返ってきました。
この言葉が、会社をきちんと立ち上げてやっていく理由のひとつになりました。
手のひらサイズの、私一人がいればできる世界。それを、組織の力で広げていく。
いまゆいまわるでは多くのスタッフが、その手のひらから受け取った実践を、それぞれの場所で広げてくれています。
法人化の背景には、もうひとつの苦い経験もあります。
ボランティアで現場の結果を出し、それを数字にして行政に持っていったとき、担当の方が「これはいい」と動いてくださいました。
ところが翌年、担当の課長が変わると、その情報は引き継がれていませんでした。
一年半の積み重ねが、どこへ行ったのか分からなくなってしまったのです。
では行政が動かないなら現場だ、と講演会を開き、支援を組み、先生たちと膝を突き合わせもしました。
けれど、現場だけでも上にはつながっていきません。
行政が悪いのでも、現場が悪いのでもない。このやり方では続かないのだと学びました。
学校作業療法を一過性で終わらせず、未来へ届け続けるために、私には法人という形が必要だったのです。
行政も現場も動かしたのは、子どもが変わっていくストーリー
あれほど難しかった、行政と現場を動かすこと。その答えは、たったひとつでした。
これまでのやり方や事情はいったん置いて、「これがやりたい」と思わず指させるもの。
それは説得でも理屈でもなく、目の前で子どもが変わっていく姿そのものでした。
そのストーリーを前にすると、行政も現場も「これ、これがやりたい」と同じ方を向いてくれます。
そうして実践は、沖縄からいくつもの市町村へと広がっていきました。
いまでは沖縄の6市町村で、委託を受けて学校や園に入らせていただいています。
一人でボランティアからはじめた学校作業療法が、気づけば3拠点、21名のスタッフへと広がり、学校や園で、これまでにのべ300名以上の子どもたちと関わってきました。
それでも、やっていることの芯は最初のひとりから変わりません。
目の前の子どもや先生、保護者の「やりたい」「こうなってほしい」に焦点を当てて、それを一緒に実現していく。その繰り返しなのです。
その変化を支える、フリー・フラット・ファン
子どもが変わっていくストーリーは、子どもだけで生まれるものではありません。
その手前には、いつも親がいます。
親が追い立てられて、自由に選べないままだと、子どもものびのびとはやれない。
私たちが大事にしているフリー・フラット・ファンは、この変化を支える土台です。
フリーは、自由ということ。
子育ては一期一会で、その子のたった一度の人生です。だから、親が自由に選択できる世界をつくりたいと思っています。とはいえ、いまは本当に自由に選べているでしょうか。たとえば保育園でうまくいかなかったとき、来年の小学校をどうするかで教育委員会に呼ばれ、「本当に普通級に入れるんですか」と問われることがあります。あれは行政の方が意地悪なのではなくて、そう言わざるを得ない事情が行政側にもあるのです。誰かが悪いわけではない。それでも、もっと自由に選べる世界をつくりたい。その思いがフリーです。
フラットは、みんなでということ。
子育てというと親が育てるものだと思われがちですが、子どもは本来、地域のみんなで育てていくものです。親を軸にしながら、まわりのみんなで一緒に育てていく。親が一人で抱えこまずにすむように、という願いも込めています。
そしてファンは、楽しく。
どんなに大変な場面でも、笑顔でいられること。私たちが大事にしてきたのは、ずっとこのことでした。
親が自由に選べて、まわりのみんなで一緒に育てて、その場が楽しい。
このフリー・フラット・ファンがそろってはじめて、子どもは安心して動き出します。子どもが変わるストーリーは、その土台があってこそ生まれるのです。
なぜ、湘南・鎌倉で学校作業療法を始めるのか


湘南とのご縁は、実は3年ほど前から始まっていました。
沖縄で取り組んできた学校作業療法に、国立特別支援教育総合研究所(NISE)の先生方が関心を持ってくださり、学校教育のなかで外部の専門家がどう関われるか、その有効なモデルになり得るのではないか、と調査に来てくださったのがきっかけです。
その後、NISEの教員向け研修にも「届けたい教育」を中心に据えた内容が組み込まれるようになり、昨年度から継続して講義を担当しています。
そうした流れのなかで、私にとって神奈川県は、単なる新しい活動地域ではなくなっていきました。
学校作業療法を教育の世界に広げていくための、大切な接点。そう意識するようになったのです。
神奈川には、私が信頼し、尊敬している作業療法士も多くいます。
沖縄で積み上げてきた実践を持ち込みながら、神奈川の実践者のみなさんと一緒に新しい価値をつくっていけるのではないか。その期待も、湘南を選んだ理由のひとつでした。
では、湘南のなかでなぜ鎌倉なのか。どこを拠点にすべきか悩んでいたときに出会ったのが、いまの拠点である『Kuguru』です。
場所そのものはもちろん、そこに集まる人たちや流れている空気に触れたとき、「ここから始めたい」と自然に思えました。
ゆいまわるが新しい地域に入るとき、最初はいつも、地域の方から「どうしてうちに来たのですか」「続けられるのですか」と心配されます。それは当然のことだと思っています。
沖縄で学んだのは、子どもたちのストーリーがまちを動かすということです。学校作業療法は、特別な支援技術を届けることが目的ではありません。
子ども一人ひとりが持つ物語に耳を傾けて、その子らしい学びや育ちを地域全体で支えていく。それがしたいことです。
そう考えたとき、鎌倉というまちには、その挑戦を育ててくれる土壌があると感じています。
鎌倉から藤沢・横須賀・逗子へ。湘南で、これから始まること
私たちは、神奈川県を、学校作業療法を本格的に学ぶ拠点にしたいと考えています。
沖縄で積み重ねてきた実践を、そのまま移植するのではありません。
神奈川の教育や文化、人とのつながりのなかで育てながら、新しいかたちを一緒につくっていく。そして、ここから学校作業療法を学ぶ人が増え、地域を越えて実践が広がっていく。
鎌倉での挑戦は、ひとつの事業所をつくることではなく、教育と地域をつなぐ新しい学びの拠点を育てることでもあるのです。
動き出し方は、地域によってさまざまです。
鎌倉では、ゆいまわるSHONANを拠点に保育所等訪問支援からはじめ、教育委員会の研修にも関わらせていただいています。
横須賀市では、市と一緒に、委託に向けた試行(まちOT)が始まっています。藤沢市や逗子市でも、保育所等訪問支援を通して、少しずつ学校作業療法の理解を広げていく段階に入りました。
それぞれの地域に根ざし、できるところから。腰を据えて子どもが変わっていく実践を積み重ねていきます。
新しいまちに入るとき、不安がないわけではありません。
でも、その不安は、子どもが変わっていく姿を前にすれば、きっと笑顔に変わっていく。沖縄でも、関西でも、そうでした。だから湘南でも、一年後には「ここでやれてるじゃん」と笑い合える世界を、必ずつくれると思っています。
気になる子のこと、学校のこと、地域の支援体制のこと。湘南でも、まずはお気軽にご相談いただけたらうれしいです。
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